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【2019.5.9】研究拠点創成フォーラムNo.14「教育学とはどんな学問か,教育学を通してどんな能力を育てるのか」を開催しました

公開日:2019年05月17日 カテゴリー:開催報告

[研究拠点創成フォーラムNo.14:集合写真]

広島大学インキュベーション研究拠点「教育ヴィジョン研究センター(EVRI)」では、教育の専門家ユニットの教育学研究者クラスタに関連して、2019年5月9日(水)に京都大学高等教育研究開発推進センター・松下佳代教授をお招きし、研究拠点創成フォーラムNo.14「教育学とはどんな学問か、教育学を通してどんな能力を育てるのかー日本学術会議 教育学分野の参照基準検討分科会の議論からー」を開催しました。

 

冒頭挨拶:草原和博教授(社会認識講座)


ーなぜいまこの議論をしなければならないのか,なぜ松下先生をお呼びしたのか。ー

まず、草原先生より本フォーラムを企画した動機について、参照基準に関心を持っている理由を3つあげられました。そして、それら関心にこたえていただきたいと考え、教育学分野の参照基準の取りまとめ役である松下先生より直接お話をいただくこととなったとの説明がありました。

[参照基準に関心を持っている3つの理由]

①「ハイプロ」の伝統をどうやって受け継ぎ、更新していくか。
広島大学は平成18年度から、全学部全学科全専攻(実際にはプログラム単位)でHIPROSPECTS(到達目標型教育プログラム,通称ハイプロ)を設定している。当時自分が社会科ハイプロの作成担当者として苦しんだのは「目標項目・目標群をどのように設定するか」ということ。教師としての目標?研究者としての目標なのか?はたまた社会人としての目標なのか?
②「コアカリ」にどう対応していくか。
広島大学のユニークな特色として、教育学研究者の養成と教員養成の両方の機能を併せ持っている点がある。しかしこれらは対立する部分も多いし、各専攻ではどちらを重視するかの比率も異なっている。2つの目標群をどうやって統合・調整していけばよいのか。
③「参照基準」をどのように活用していくのか。
どういう目標を掲げ、どう活用できるのか。大学の認証評価ではどういう形で参照されるのか。どういう独自の人材育成のあり方を掲げていくのか。

このような開催の動機を会場の皆様と共有した上で、松下先生には教育学教育の体系・方法と社会的な存在価値に関する議論を、また教育学教育と教員養成教育の関係に関する議論をご紹介いただくこととなりました。

 

講演:松下佳代教授(京都大学高等教育研究開発推進センター/日本学術会議 教育学分野の参照基準検討分科会・委員長)


本題に入る前に、ご自身の経歴と現在の取り組みについて大学教育と初等中等教育の両方を視野に入れて,理論と実践の往還できる研究を進めているとのお話しがありました。

松下先生は、現在、日本学術会議教育学分野の参照基準検討分科会の委員長をお務めです。そこで、参照基準作りの責任者というお立場から、参照基準作成の契機とプロセス、作成過程で浮かび上がった論点や課題等についてご説明いただきました。
参加者の方々には、事前に「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 教育学分野(第一次案)」のデータが送られており、参加者は目を通して来てほしいとリクエストがありました。以下に、ご講演の内容を簡単にまとめました。

[参照基準について]

日本学術会議の設定する「分野別参照基準」は、正式には「大学教育の分野別室保証のための教育課程編成上の参照基準」という。その名の通り、「学位プログラム」の作成において、カリキュラム編成の際に参照すべき基準として、各分野で設定することが提案されたもの。この背景には、日本の高等教育の質保証を行っていくべきという(日本の大学教育の卒業率が高すぎるのではないか、日本の学位は国際的な水準に達していないのではないか…と海外から厳しい指摘を受けた)文科省からの要請がある。
参照基準の前段となる「学士力」についての議論が出た際に,中教審では英国における同様の指標である「Essential Learning Outcomes」が参照された。英国の指標では,「人類の文化や自然界についての知識(Knowledge)」「知的・実践的スキル(Skills)」「個人的・社会的責任(Attitudes)」の三領域と,それらが統合された「統合的学習」から構成されていた。これにならって,中教審答申では「知識・理解」「汎用的技能」「態度・志向性」そして「統合的な学習経験と創造的思考力」という指標が設定されることになった。
この答申に対する回答として,日本学術会議は「大学教育の分野別質保証の在り方について(http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-k100-1.pdf)」によって,参照基準の構成要素を発表。あわせて,教育学分野が全分野に先駆けて参照基準の「サンプル」を提案することとなった。

▷その後,「サンプル」などを参考にして分野別に参照基準を設定することになり,現時点で33分野中32分野の参照基準が提出された(http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/daigakuhosyo/daigakuhosyo.html)。もう参照基準を提出していないのは,われわれ教育学分野だけという状態になっている。
[教育学分野 参照基準作成時の論点]

教育学分野が参照基準を提出できない一番の要因は、「そもそも統一的な参照基準を設定することに問題はないのか」という(教育学だからこその)懸念と議論があったためだ。統一的な「基準」をつくることにより、各大学の自立性を損ねないか、標準化を進めはしめないかという懸念。質保証と自立性の尊重をいかに両立させるか。「サンプル」の際は過度に具体化せず,抽象的な記述をするに留めていた。しかしそれではわかるものにならない。自立性の尊重と了解可能性のジレンマ。とはいえ、他の全分野が提出してしまった以上、作らないわけにはいかない。作る以上は、活用されなければ意味がない。どうすれば有効に活用されるものになるのか。メンバーは会合を重ねた。

[参照基準 第一次案の解説]

実際にテキストを見ながら,それぞれの章立ての意図や本文の記述の背景について詳細に説明していただきました。「読む際は、みなさんでまず目次をご覧いただき、どんな内容が書いてあるかを想像しながら、実際に中身を読み進めていくと批判的に読むことができるのではないか」、とのこと。
※ここで説明された内容はかなり複雑かつセンシティブな情報が含まれるので、詳細は割愛します。ご自身で第一次案をご覧頂き、どこでどのような議論が展開されたかをご想像下さい。ご意見・ご批判があれば,パブリック・コメントの募集時に受け付けていただけるようです。

 

 

質疑応答


残り20分程度は質疑応答の時間になりました。

「60分があっというまだったでしょう。なぜなら,ここ(第一次案)に書かれていることは、研究者としての自己の実践やアイデンティティに迫ってくるものであり、自己省察なくして聞くことができない内容だったから」…「私自身ここで書かれていることが身についているかどうか不安なところですが…」と草原先生。

質疑応答の際には、”学士課程の修了者水準としての妥当性”、”メリトクラシーの強調に対する批判”、”学校教育にそなわる公共性の視点”、”学士力を育てる研究者・教育者の資質・能力”、”教科教育学の内容・方法の取扱い”などについて、質問や意見が挙がりました。松下先生は、一つ一つの質問・意見に大変丁寧に答えてくださいました。

 

今回のフォーラムには、大学教員だけでなく、学部生・大学院生、さらには現職の先生多く参加され、会場はほぼ満席の状態でした。参加者の方々は、それぞれ「自分たちは参照基準に掲げられている目標を達成させられるような仕組み作り、教育実践ができているのか」、「自分たちは学部時代に本当にこの参照基準に掲げられている目標を達成できたのだろうか…」と振り返りながら聞かれていたのかもしれません。


今後ともEVRIは、関連するユニット・クラスタの発展に取り組んで行きます。

レターも作成しておりますので、ぜひご覧ください。
【EVRIレターNo.50】

EVRI Letter no.50のサムネイル

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